失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



ホテルの中で再び意識を消されて

僕は日常へと返された

彼は僕の意識が戻るのを待って

朦朧とする僕を車の中で弄んだ

夕方の人気のない広い公園の脇に

彼は車を停めて僕に

その日最後の刻印を刻む

車の窓ガラスは黒いスモークで

僕らの狂宴を誰も気づかない

そうやって彼は

日常と悪夢が地続きであることを

僕に刻み込む

敏感な部分をキツく責められて

逃げ場のない車の中で身悶える

僕が逃げるのを愉しげに引き戻し

更に過酷な行為で罰する

そして僕が動けるのを確認すると

僕の服を整え人目のない路地で

僕を降ろす

僕はそこから電車で帰る

最寄り駅からほんの2~3駅の

僕の知り合いのいないエリアを

彼は上手く選ぶ

闇の残り香を纏わされて

僕はふらふらのまま電車に乗る

このままでは帰ることが出来ない

駅前の騒がしいハンバーガー店で

安いコーヒーを流し込み

やっと呼吸することを思い出す

叫び出しそうになるのを

必死で抑えながら

時折震える身体をなだめる

その夜は狂ったように自分を

独りで慰める

何度も何度も繰り返さなければ

決して終われない自慰

身体から彼の爪痕を消し去るように

自分の性感で身体を埋めつくしたい

あの男のことも兄のことも

思い出さぬよう

考えぬよう

だが出来ない

パニックが襲う

身体中を何かが這い回るような

異常な感覚…

ぞわぞわぞわぞわと絶え間なく

見えない舌が全身をなめ回すように

気持ち悪い…やめて…来ないで

頭を掻きむしる

身体も掻きむしる

掻きむしりながら思い出す

兄の発作の姿を

僕は今…同じことをしてる…と

「あ…ああ…あ…あ…あ」

こ…えが…もれ…る

叫びたい

吐き出したい

死ねないなら狂わせて

お願いだから

もっと

気持ちよく

なり…た…い…







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