失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
メール
珍しく兄から携帯にメールが来た
兄は大学に行きながら
夕方からバイトで家庭教師をして
最近は帰りが遅い
メールが来たのは夜も10時を過ぎ
もう帰宅する頃なのに…
メールには簡単に一行
こう書いてあった
「電話して 今すぐ」
僕は胸騒ぎがした
何かはわからない…でもおかしい
兄は僕にメールをしない
メールが来るのがおかしい
内容はもっと
いやな予感をぬぐうために
急いで居間から自分の部屋に戻り
兄の番号にかけた
電話はすぐつながった
「ごめん…迎えにきて欲しい」
「ねぇ…兄貴…どうしたの?」
「体が…動かない…説明はあとで」
「ねえ!どうしたんだよ!」
「とにかく…迎え…よろしく」
「迎えって…どこに?」
「ああ…そうか…言わなかったっけ
○○駅まで…北口のベンチのあると
ころ…わかるかな…本屋の前の」
「わかった!すぐ行く」
自転車で10分ぐらいのところだった
いつもの最寄り駅じゃないのが
気になった…体が動かないって
なにがあったんだよ?
兄の言葉では全く予想がつかないそ
の事態を僕は考えたくなかった…
発作が出そうだ
「母さんらには言うなよ」
なにかあったことは間違いない