失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】






こんな地獄に…独りで

生きて

兄は幼い頃から

独りでこれを…

中学校に行き始めた兄の

暗い姿が不意に浮かび上がる

もしかして毎日

こんな狂った身体に耐えて

日々を生きて…?

あ…

耐えられない

今まで気が付かなかったことが

次々と脳裏に浮かびあがる

きつく僕を抱きながら

僕を愛した兄

心が苦しいほど孤独な目をして

僕をかき抱いて眠る兄

骨膜炎になり疲労骨折を起こすほど

部活でひたすら走って

身体の熱を静めて耐えていた兄

聞かされて知っていたのに

わかっていなかったこの苦しさ

こんな淫火の中でさえ

あんなに僕を純粋に愛してくれた

今ならわかる

この身体を許すことが出来ない

そしてもしこれを

幼い僕に刻みこんだと認識したら…

自分の存在そのものを

否定する

兄なら…




「あはっ…ああ…あんっ」

「腰を回して…犬みたいにすりつけ

て…自分から腰を使い始めたな」

「乳首をこんなに立てて…女みたい

に感じて…貪欲な身体だ」




ほら…もう…求めてる

兄が拒絶しながら

父親に抱かれたように

僕もいやなのに開いてしまう

一瞬…この身体…兄か自分か…

わからなくなる

あ…にき

あに…き

ぼくも…もうすぐ…堕ちる…よ

自分から身体…開く

見知らぬ男に抱かれて

喜悦に…溺れる

もうすぐ…そこま…で

と…ど…く

だか…ら

も…う

あに…き…

独り…じゃ…ない

こん…な…暗闇で…ずっと

待た…せ…て

ごめん…ね

もうす…ぐ

そこ…まで…い…く







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