失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



後ろ抱きにされて

二度目の凌辱が始まる

根本まで固く繋がれて

僕は虚脱したまま

彼に腰を奪われ弄ばれた

「私に屈服するんだ…心も身体も

君のことを助けられるのは…

私だけだ」





犯されながら

あまりに悲しくて

涙があふれてきた

僕は思った

あなたがまるで宿り木のように

誰かの闇に寄生しなければ

あなたはこんな酷い思いを

しなくて済むのに

プライドも支配も

はかない

それでもあなたは

手に…入れたいんだね

心も身体もあなたの思い通りに

だから闇という手綱をつかんで

操ろうとする

あなたはそれを半分わかってるけど

半分は無意識で

愛が支配に変わる瞬間を

きっと気づかない





きっと僕も

兄を欲しがり過ぎたのだ

実在の肉体を持った兄を…

ほんとだ

普通の兄弟の愛で

ただ心を分かち合い

思い遣りの中で暮らせれば

なにも喪うことはなかったはず

それができなかった

できなかったんだ

なぜなら

兄はもう…闇の中にいたから

でも僕は闇に巻き込まれても

悔いはない

兄が歩いた闇を歩きたい

だから僕は

此処でこうやって

この人や知らない男達に犯されても

僕はそれで…いい

そう思えた…男達に犯されながら

兄の愛があるから

どんなに暗くても

僕にはそれしか見えない

たった…それだけの…こと

兄の心…

きっと…一緒に居る

だから僕は

どんな闇の中でも

兄の姿を見る

淋しげな優しい眼差しを

僕は闇の中で見つける

兄の苦しみをわかって

共に味わって

そして兄の絶望に

一歩でも近づきたい

兄を独りに

したくない

離れてわかった兄の孤独の深さ

堕とされてわかった兄の狂気

兄がいなければ

僕も容易く闇に染まるだろう

だけど兄が居る限り

僕は兄を愛してしまう

どうしても

それをやめることは

出来ないのだ…と








< 144 / 360 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop