失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
友達から相談のメールが来たと
母にウソをつき家を出た
兄はベンチに横になっていた
「兄貴」
僕は兄の肩に手を置き
少し揺さぶった
「あぁ…悪い…起こして」
「何があったの?」
「聞くな…吐きそうだ」
兄は笑っていた
「誤魔化すなよ…どうしたんだよ」
「…今は言いたくない」
「助けるからあとで話してよ」
「…ん…わかった」
僕は兄の体を起こした
「自転車乗れる?」
「ダメだな」
「じゃあどうすれば…」
「タクシー呼んで…酒買ってきて」
「あぁ?…酒?」
「うん…飲んだことにする…親に」
「なんなんだよ!」
近くのコンビニで缶入りサワーを買
い兄に飲ませた
「タクシー呼ぶよ」
北口にはタクシーはなかなか来ない
僕は南口のタクシー乗り場に並び
順番を待って乗り込み
北口の兄のいるベンチまで
タクシーの運転手を案内した
「じゃあ先に…あとは出来る」
「本当かよ…絶対話してよ」
「わかったよ」
兄をタクシーに移し僕はコンビニで
マンガを呼んで時間を潰した
タクシーなら10分もかからない
僕はタイミングを見計らって
自転車で家に向かった
くそ…なにがあったんだよ
よく発作が出なかったと
我ながら感心した
きっと火事場のなんとかってやつだ
僕は兄から聞き出せるだろうか
良いことでは絶対ないはず
家に帰ると兄はもう部屋で寝ている
と母がなんともなく言った
うまくごまかしたな…
ちょっとだけ安心した
さあ…次は兄が話す番だ
僕は階段を上っていった