失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




僕は耳を疑った

母の話が母のいる世界とは

違う世界の話だった

「彼は…同性愛者だった…いとこも

私も気付かなかった…いとこは私と

逢う口実に彼がいて…私は彼に逢う

のをいとこに頼っていたから…

そして彼はいとこが私を好きなこと

を薄々勘づいていた…そして私が

彼を好きなことも勘づいていた

あの日…いとこはあの人に宣言した

"卒業したら彼女に結婚を申込む"

って…今日のお祝いの席で告白する

だから君は立ち会ってくれないか

って…あの人は高校生で出逢った時

からいとこに恋してきた…あんなに

純粋な想いをしたことがないって…

そのいとこが私に結婚を申込む…

彼は絶望と嫉妬に狂った…いとこは

ノーマルで普通の人よ…あの人が

どうやっても告白なんか出来ない…

それどころか間違えばいとこは彼を

避けるようになる…親友ですら

なくなり…彼を永久に失う…だけど

親友のままいとこと私が夫婦として

彼と付き合っていくには嫉妬が苦し

過ぎて生きていけない…と

彼は私がいとこと結婚することに

なったら死ぬつもりでいたの…それ

くらいいとこに恋焦がれていた

だから彼は私をいとこから奪ったの

いとこの心を奪った私に復讐する

ため…自分に背を向けたいとこにも

復讐するため…そしていとこと同じ

血の流れている私と交わるために」

それはまるで地獄をこの世に

移してきたかのような

凄惨な光景だった

「いとこは睡眠薬を酒に混ぜられて

私に告白する前に眠らされた…彼は

私のお酒にも後から睡眠薬を入れて

意識のない私を…ホテルに連れて

行った…それは彼の賭けだった…

そして彼は無情にもその賭けに…

勝ってしまった」

僕は心臓が苦しくなってきた

あまりの皆の無惨さに

心が折れそうだった




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