失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




「でも…私の地獄はそこからだった

彼は笑っていた…あの人は嬉しそう

に笑ったの…これで君に俺の見た

悪夢をようやく見せてあげられる…

と…彼はこの世を憎んでいた…愛し

た者と結ばれないこの社会そのもの

を…そしてなんの後ろめたさもなく

当たり前に結ばれ当たり前に祝福さ

れる男女の普通の愛を…彼は激しく

憎んでいた…彼は全ての計画を私に

語って聞かせた…この時を待って

いたとばかりに…私ではなくいとこ

を愛してたこと…あの日の残酷な

策略のこと…復讐そしてあの子に

何をしたか…あの子がどうなったか

…彼は言ったわ…この子は復讐の

申し子だ…お前はこの子と共に一生

地獄を味わうんだ…俺と離れても

お前は許されない…この子がいる

限りお前は死ぬまで地獄と悪夢に

生きるんだ…俺の影につきまとわれ

て一生苦しむんだ…と…あの人は

愛を奪われて悪魔と化してしまった

私はすぐにあの子を連れてその晩に

出て行った…二度と戻らないと自分

に言い聞かせて…あの子をこれ以上

この家には置いておけなかったから

でも…両親にどうやって説明したら

いいか…分からなくなった…あの子

が虐待されてたことを誰にも言える

わけがない…何日かホテルで過ごし

て…でも…その時から悪夢が私達を

襲った…」

母はベッドに顔を埋めたまま

もう身体を起こすことが

できなかった







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