失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



やはりそれは

パンドラの箱だったのだ

僕は兄と自分のルーツの残酷さに

胸の痛みが止まらなかった

「…お父さんが助けてくれた時…私

はお父さんを呪ったわ…海から引き

挙げられて…あの子も助かって…

でも私はお父さんに泣きながら

殺してって頼んだ…直に警察が来て

両親が来て…私は半分本当で半分嘘

の話をしなければならなくなった…

彼は年下の男と浮気した同性愛者…

私と息子は偽装結婚の犠牲者…でも

お父さんには少しだけ本当のことを

打ち明けてしまった…」

「えっ? 親父…知ってる…の?」

「…少しだけ…まだ助けてもらった

ばかりの頃よ…自殺未遂して病院に

二人で入院してた時…お父さん心配

して…毎日見張りに来てた…私が

また親子心中しないようにって…

あの人まだヤンキーから足を洗う前

で…怖かった…でも私達のこと…

ただの赤の他人なのに…すごく心配

してくれた…子供が可哀想だって…

なんで死のうとするんだって…私

問い詰められて…秘密にしなかった

ら死ぬって威かして…お兄ちゃんが

虐待されていて心も身体も普通じゃ

ないと説明したわ…お父さん泣いて

た…こんな可愛い子に酷いなって

だからお父さんは…それも承知で

結婚したの…お兄ちゃんは結婚する

前からお父さんによくなついていた

し…私はすごく安心出来た…でも

お父さんはあの子がどんなことを

されていたか…そして私があの日

あの子にしたことは知らない」

親父はあの人が死んだあの日

星を眺めていた

複雑な思いがきっと

往き来したに違いない

「不思議なことに…あの子は…心中

未遂してから少しづつ…落ち着いて

きた…あまりにショックだったから

かも知れない…それは何故かはわか

らない…」

母は少し落ち着いた様子だった

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