失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




「あいつ、病気になってた」

「えっ?」

「アル中で肝硬変だって言うんだ」

「あいつって…もしかして」

「死ぬかも…って…」

「あいつなのかよ!!」

「お前に捨てられて淋しいって」

なんて…兄の弱点を知り抜いた手を

「ズルい!そんな…兄貴は断れるは

ずないじゃんか!」

僕は切れそうになった

悪どい手を使いやがって…

僕の身体は怒りで震えていた




“あいつ”とは

兄の父親だった

まるで兄は

自分の淋しさをまぎらわす道具

僕の家族を苦しめ

まだ兄を僕を苦しませるのか?

「兄貴…兄貴はどう…」

「俺のせいだなんだ」

「兄貴のせいじゃない!!絶対に

兄貴のせいじゃない!!」

「あんなヤツでも親なんだ」

「なんで…」

僕は力が抜けてしまった…

兄の気持ちがわかってしまうから



子供は無条件で親を受け入れてる

たとえ虐待されても



僕は兄のことで

虐待された子供の心理学や医学書を

少しだけ読んでいた

それらには決まって

こう書いてあった

子供は虐待されても

それが自分のせいだと

ずっと思っている

自分が悪いから

こんな風に怒られるんだと







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