失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




だが読み終えた兄の顔は

なぜか安らかだった

それは兄が

あの男があの人の恋人だったことを

そしてあの兄を陥れた

忌まわしい策略もすべて

何もかも知ったうえで

関係を続けていたことを

暗示していた

「お前…これ読んで…どうした…」

兄は少し不安げに僕に尋ねた

僕は途中までの真実を語った

「僕…この電話番号…知ってた」

「えっ…?」

兄はまた驚いた顔で僕を見た

「兄貴の携帯…病院の時見たって

謝ったじゃない…その時兄貴が履歴

を消してなかったから…その番号が

たくさん残ってた…手紙読んで

だいぶ経ってから思い出して…兄貴

の話とつながっちゃった…部屋に

来てた人なんだなって」

僕は兄に確認した

「兄貴…知ってたの?」

「ああ…知っていた…親父の恋人だ

そして俺を…あの男達に引き渡した

のも…多分…彼」

僕はそこまで兄がわかっていると

知って驚いた

「そんなことわかってて…なんで」

兄は暗い顔をした

「お前を…あきらめるためだよ…

そして俺は俺がお前に犯した罪が

全て返ってきたと思った…そして

父親の犯した間違いを…代わりに

俺が払うんだと…負の遺産として」

「彼?…負の遺産?…でも…好き…

なんだよね…その人のこと」

僕は聞かずにはいられなかった







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