失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




「身体は求めてしまう…心は

お前から…離れない…彼を愛せれば

良かった…そうすれば父の罪も軽く

なるのに…彼が間違えて父の名前で

俺を一度だけ…呼んだ…俺と父は

名前が似てるから…それですぐ俺は

わかった…親父に彼氏がいるのは

前から薄々わかっていたし…まだ

親父が死ぬ前だった…きっと親父が

俺の様子を探りたいのかと思って…

でもお前に病院に連れて行かれて

事が明るみに出て…俺はこの陰謀の

すべてが彼の計略だと想像出来た…

多分それは間違いじゃないと思う

だから俺は父が死んだことを彼に

知らせた…彼は俺と父の名を呼び

間違えていたことを気がついていな

いことがわかった…彼は知らない

ふりをして取り繕っていたけどね…

俺が何も知らないと思ってたから」

残酷だ…兄は僕の名を

彼は兄の父の名を…

人は心を込めて

名前を何度も呼ぶから

名前は心に刻まれて…

「僕が悲しかったのは…二人とも

報われないから…なんだ」

「ああ…報われない…彼は親父の影

を追い求めて…俺はお前の影から

逃げようとして…でもその時は俺は

気付かなかった…あの母の告白を

聞かされて…俺ははっとした事が

ある…彼は…母のいとこに似てる

一度だけ会ったことがある…だから

初めて彼と会ったとき…妙な既視感

があった…それがなぜかわからなか

ったけれど…母の話を聞いて…俺は

この関係の本当の報われない悲劇を

知って…既視感の源を思い出した」






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