失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
部室で僕は
パンク野郎と共に
ある重大な決意をしようとしていた
それはヤツの書いた一枚の詞から
始まった
「オリジナル…やらねーか?」
ヤツは本気だった
「お前のギターがなけりゃこんな
無謀な思いつきはしない」
有り難くも不安にさせる
この褒め言葉…受けていいのか?
「オレのスーパーボーカルは鉄板だ
詞は詰めれば完璧…だけど」
「だけど?」
「あ~!作曲がなぁーっ!」
「んで…僕に作曲しろってか」
「そうそう!」
野郎は口説き落としにかかった
「お前さ…練習んときフレーズ引く
だろ…あれ良いよ」
「他人のフレーズだろが!」
「オリジナルでやるじゃんか!」
「知らねーよ…適当だし」
「あれでいいだよ~お代官さま~
曲を書いて下せぇ~」
妙なへりくだり方…逆効果だし
「詞はこれだ…これに切ねぇメロの
パンクをのせる…全米が泣け!」
「それは素敵な妄想…病院が来い」
「まあ…見てよ」
自信があるのかないのか
僕はとても汚い字で書かれた
ルーズリーフを手渡された
それにはこんな詞が書かれていた
君にこの愛をあげる
誰にもわからないように
君に愛の言葉を告げる
君だけに届くように…
それを見て僕はドキッとした
これ…ヤツの秘密じゃ…?
直感的に感じたそれは
間違いではなかった
僕はその詞の続きを
読まずにはいられなかった