失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「…そんなこと…本当に?」
「さあね…ただのドライブかもな
君には関係ないことだ」
「いや…関係あるよ…僕らの秘密を
持ったままあなたはどこかに去って
きっと僕や兄貴の写真とかビデオ…
持ってるんでしょ…?」
「心配か…?」
「当たり前…だよ…」
僕は危惧していることを
そのまま話した
「君らがどうなろうが…メリットが
ないな…君の兄さんの心を求めて
いたが…もう取り返しがつかない
彼も亡くなった…手に入れるために
何かをすることは…君のことぐらい
だが…それとも逃避行に連れて行こ
うか…ただの足手まといだな
二人とも死ぬだろう…君が凄腕の
スナイパーかヘリの所有者とかなら
ともかく…悪いが君を脅迫して縛り
つけておくメリットはない…自分の
命が大事だ」
僕にはその切迫した状況が
信じられなかった
「君にはもう少し逢いたかったのに
残念だな…」
彼は思いもつかないことを告げた
「せっかく仲良くなれそうだった
のに…神は天使と悪魔が仲良くする
のがお嫌いのようだ」
僕は神という言葉が
彼の口から出たことに驚いた
「祈れば良いのに」
「はあ…?」
「本気で…狙われてるの…?」
「70%以上の確率で」
「なら…祈れば良いのに」
一瞬の沈黙の後彼は大笑いしていた
「あはは!…君…天使だ…本物だ
この私に…祈れって…!」
そして彼は僕の顔をチラッと見た
「君に祈って欲しいな」
彼は意外な返答をよこした
「悪魔が神に祈るわけないだろう?
君の方が効きそうだ」
彼はしばらく苦笑していた
「私に祈りを勧めるって…君は本当
に…自分が私に何をされたか…忘れ
たのか…?」