失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




僕はとても複雑な気持ちに

陥っていた

禍々しい彼の行為の全てを越えて

幸せになって欲しいと

あの時兄と二人

彼のために祈りを捧げた

その彼がいつの間にか

兄への気持ちも萎え

同時に誰かに狙われている

これが祈りの結論なのか?

兄が闇との繋がりを失い

彼から自由になった

こんなにもあっさりと兄に対する

執着が彼から消えるなんて

僕が戸惑うくらいだった

兄はどう感じているのだろう

彼は兄の所へはもう行かないのか?

兄の方が逆に困りはしないだろうか

自分の身体をもて余して

それなら僕を抱いてくれたらと

はかなく願ってみるけれど

兄の僕に対する罪悪感は深過ぎて

僕らの関係がまた取り戻せるか否か

それは神さましかわからない

としか僕には言えない

そしてこの闇を抱え

人の心を閉ざしたまま

自分を悪魔と呼んで笑い

他人の闇を喰べ秘密を餌に

生き続けようとする彼

そして呑み込んだ

誰かの秘密の毒に当たり

命の危険にさえ曝されているという

彼は自分を過信している

だけど僕にはこの変な一日を

彼と共に過ごし

彼の今までのやり方では

危険を回避出来ないのではないか

というなにか嫌な予感がした

言葉にはならない感覚

強いて表現するとしたら

宇宙からの最後通牒のような…





「あなたは…酷い人だと思うよ…

僕は苦しいし…死にたくなることも

ある…でもそれ以上に…あなたが

悲しくて…たまらないんだ…初めて

窓からあなたと兄の関係を見てしま

ったあの日から…あの部屋は悲しみ

の海みたいだった…だから僕は…

あなたには…逢いたくないけど

恨むことが出来ないんだ」

彼は笑うのをやめた







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