失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「若いのに偽善者が板についてる」
彼は苦々しい顔をした
「なぜ"殺したいほど憎い"と
言わないんだ」
彼は僕をにらみつけていた
だがそれを聞いて僕はキレた
「憎悪の前に悲しみがあったんだ!
悲しみを感じなけりゃ憎みも恨みも
するさ!…あなたが省みないからだ
だから溢れて漏れてるんだろ?!
自分の心を封印して人を操って…
悲しくて虚しいから人の闇につけこ
んで…とりこにして…なんで普通に
優しく人を思いやるような愛し方を
しないの?!…あなたは人一倍愛して
欲しいのに…なんで本当の愛を与え
ないの?!」
彼は無表情に呟いた
「愛なんて知らない」
彼はなぜか不思議そうな顔をした
「それは…なんだ?人は自分の欲望
を果たすために生きているんだ
愛なんていう戯言を本気で信じてい
るなんてな…さすが君だ…私に愛に
ついて説教したヤツは初めてだ
君は教会の牧師にでもなれ…特技は
悪魔への教誡とでも言うのか」
彼は吐き捨てるように付け加えた
「私は母親にさえ愛されなかった
父親は誰かもわからない…愛を知ら
ないのは私の運命だ…神がそう望ん
だからだ…知らないものを知ってる
振りをするのを嘘つきという…
私は正直に生きてる…それだけだ」