失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




このまま倒れて

朽ち果ててしまいたいと思った

泣いて泣いて涙で溺れて

死んでしまいたい

そしてもう一度

もう一度だけでいい

…彼に逢いたい

それが叶わないなら

ああ…神さま

どうか

彼を死なせないで

お願い…お願いだから

彼を

彼を助けて

僕はアスファルトを拳で叩いた

今までの苦しみがすべて報われた

なのに…なんだ…?

僕はすべてを与えられ

そしてたった一日で

全てを奪われた

僕の拳はアスファルトを叩き続けた

なぜ…?

なぜなん…だ

…わかってる

これしか道がないことを

この鋭い剣でしか

闇を切り裂くことができないことを

わかってるんだ

わかって…るよ

わかって…る…

だけど…僕もズタズタなん…だ

喉を切られて血まみれの

供物の羊みたいに

これが宇宙の意志なのか

愛の無限と運命の過酷さを

たった一日の中で僕に叩きつけて

彼の心を光で踏みしだいて…

アスファルトに涙が滴り落ちた

「うあああぁ…!」

僕は声をあげて

道路を叩きながら泣いた

いったい何度泣いたらこの海を渡り

約束の場所へ辿り着くのだろう?

いったい何度泣いたら

いったい何度…泣いたら







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