失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
悲歌
しばらく脱け殻のような日々が
続いた
独りになりたかった
授業の時以外は彼のくれた
デジタルプレーヤーで
ブラームスのバイオリンソナタを
繰り返し聴いているだけだった
本当にそれだけだった
部活もサボった
彼と別れた次の日の教室で
パンク野郎は僕の顔を見て
ひとこと"死んだな"
と言った
僕は黙って頷いた
みるみるうちに目が涙でうるんで
僕はそれを彼に隠すことすら
できなかった
彼は僕の肩に片手を乗せた
"生き返るまで待ってるよ"
僕はまた黙って頷いた
食欲もなく
よく眠れない夜が続いた
この半年以上
僕の心は安らかな日というものが
ほとんどないことに気づく
ひどい…
よく生きてこれた
最後には救われてしまう
破滅したくてもできない
でも少し休息くらいくれても
バチは当たらないと思うけど
限界
限界だ
何も感じたくない
そう思う矢先から
彼の安否が心配で
心が折れそうになる
毎日祈るしかない
ずっと祈ってばかりいる
それしか不安をまぎらわせるすべが
ない
忘れたい
目の前にいない人のことなんか
忘れ…た…い
また涙が溢れてくる
忘れられないから
あのたった4時間の彼との時間が
すべての苦痛と恐怖の日々を
一瞬で変えてしまったから
どうやってこの出来事を
受け入れたらいいのかわからない
ずっと願っていたのに
彼から解放される日を
ずっと
本当にこの世はうらはらだ
また僕は僕に裏切られる
そして奇跡の切なすぎる代価に
打ちのめされている