失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
そうなんだ
彼にあげたいんだ愛を
そして届けたい
でももうそれが叶わない
だから僕は悲しい
僕は…
彼のために祈ることしかできない
僕はその時気がついた
祈りのような歌を歌いたい
僕はそんなことを
あの時思ったんだと
この歌をあの人のために歌う
兄をクリスマスに帰してもらった
あの『もろびとこぞりて』
のように
できることがそれしかないなら
僕はあなたに届くように
歌うんだ
僕のギターで
(君は音楽を聴くか?)
ああ…聴くよ
何度でも聴く
そして僕はそれを創る
あなたがくれたプレーヤーの中の
バイオリンソナタのように
僕もあなたに歌を捧げるから
(君にこの愛をあげる)
メロが心からこぼれ落ちてくる
コードがそれに乗る
始まりはAm
切なく…だが希望の明かりに
照らされている心の
悲しみと救いを表す
EmからGへの移行
安らぎのCが微かに現れ
またAmの中に沈んでいく
マイナーともメジャーともつかない
水が流れるようななだらかなメロ
だが中間部からは起伏を持ちながら
一気にサビへ登りつめる
そして最初のテーマが繰り返され
間奏に入る
ここで歌詞は終わっていた
曲としてはもう一ユニット欲しい
サビとテーマがもうひとつづつ
でないと曲が終わらない
だから奴はそこを書けと
言ったに違いない
僕は初めて詩というものを
書き始めた
心に渦巻いている言葉にならない
大事な苦しい思い
ひとつひとつ名前をつけて
掬いあげたい
名もない星を星座にするように…