失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「大丈夫かよ」
親父が戻している僕の背中をさする
温かい良く知ってる大きな手の感触
やめ…て
僕に優しくする価値なんか…ない
お願い
僕を見放して
「母さん!」
父が母を呼ぶ
だめだ
…来ないで
枕元に温かい麦茶が置かれていた
寝起きしやすいようにと
母がが兄のベッドに僕を寝かした
胃薬をもらい少し楽になる
「連休終わったら検査に行こうね」
母は僕が先月に頭を打ったことが
気になると言った
「ねえ…なにか…辛いことでもある
の? 最近元気がないから…」
母親は本当に子供に敏感だ
でも…言えるはずがない
「…ただの…寝不足だって」
それは間違いではない
「少し…寝るよ…ありがとう」
「気分悪くなったらいつでも呼んで
ちょうだいね…食卓に何か用意して
おくから…今日は昼も食べてないし
お腹空いたら好きな時に食べなさい
よ」
「わかった…」
僕は急に眠りに引き込まれた
意識がなくなることが
今は救いだった
父と母の優しさが
心に刺さっている
悶えるような痛みから
早く逃れたかった