失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




僕と兄の関係のリセット

それは生木を裂くような

白紙撤回

二人とも立ち直れないほどの傷

こんなに心を互いに置き去りにして

リセットなんかしても

それは形だけにしかなり得ないのに

僕たちはその形だけのリセットで

互いに動きもとれなくなり

次の景色を見失ってしまってる

互いに手放そうとしていても

お互いがまるで半身のように

互いを求めているのに

その形と想いの裏腹なねじれの上に

晴天の霹靂のような

あの人と僕の物語がある

きっと兄は僕への重い罪悪感を

また重ねる

そして兄は今度は新たに

凶悪で手に負えない

"嫉妬"という感情に心を焼かれる

僕が兄と兄の父に感じたあの

心をえぐられるような悲しみと焦燥

それを兄は罪悪感の上に重ねる

死んでしまう

そんなことになったら

兄が

自ら命を断つかも知れないという

常に僕の心を脅かす恐怖が

また僕に襲いかかる




なぜ?

同じ人間に生まれたのに

兄と僕はこんな運命を生きなければ

ならないんだ

僕は手元にあるガラスのコップを

壁に投げつけそうになった

心の中ではそれはすでに

粉々になりその破片は

僕の手を血で汚していた

兄が僕の血に染んだガラスの破片を

拾いあげる

その破片で兄の手首が真っ赤に

切り裂かれる

想像の中ですら兄を救えない

僕はコップを片付ける気力もなく

そのまま自分の部屋に戻った





これから

死と戦わなければ…

自殺の甘い衝動

死にたい

死にたい

死にたい

ベッドが棺のように

僕を閉じ込めてくれたら良いのに…





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