失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】

証拠





あの部屋に行く

僕の砕け散る場所

常に最悪しか起こらない

呪われた部屋にまた行く






僕の身体を心配する母には

兄貴が片付け手伝ってくれたら

数学見てくれる…ということにした

泊まるからご飯いらないと言うと

「たまにはお兄ちゃんに顔見せて

って伝えてね」

と母はちょっと不安そうな顔になり

気をつけるのよ…無理しないで

と僕に釘をさした

無理しない…はあの部屋では

あり得ない

フェイクの教科書とノートを

カバンにいれて家を出た






母の言ったことはあながち

間違いではなく

身体が思いのほかキツい

連休のせいで電車は混んでいて

座れないのがこたえる

こんなときに限って

ついてない

身体のキツさと相まって

とても不安で嫌な気分が

心を支配する

逢えるのに

逢えるのに…こんな気持ち

いやだ

電車のドアの脇のスペースに

身体をもたせかけながら

兄の居る町まで耐える

時折座りこみたくなるのを

なんとか抑えていると

動物園のある駅で

半分くらいの乗客が降り

空いた座席になんとか滑りこめた






日が少し傾いた時間に

僕は兄の部屋の前に立っていた






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