失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




「何が…あった…?」

再び兄は僕に訊いてきた

「なに…って…なんの…こと」

兄が何を訊いているのか

僕には分かりすぎるほど

分かっていた

だがなぜ兄が知ってしまったのか

何をどれだけ知ってるのか

それが分かるまで

隠し通せるなら隠し通すしか

僕には道はない




兄はパソコンのデスクに両手をつき

しばらくうなだれたまま

その形のままで固まっていた

「…本当は…聞きたくもない…」

兄は重い口を開いた

「知りたくも…ない…こんな…ひど

い」

兄の声は震えていた

「…だけど…なぜこんなことになっ

ているのか…まったくわからない

なんで…こんなことに」

兄は話の核心を避けていた

だが兄が何を知ってるのか

僕には聞く必要があった

「兄貴…あの男って…誰?」

兄は初めて僕の顔を見た

「俺がお前と一緒に…幸せを祈った

男だ」

「その人…が…何を?」

兄は不思議そうに僕を見た

「なぜ…? なぜ…隠すんだ?」

兄の顔が苦悩でゆがんだ

「見なきゃ…言わないのか…あれを

見せなきゃ…打ち明けてくれないの

か…俺にあれをまた見ろと…」

「兄貴…」

「ここに…来て」

僕は恐怖で凍りついたまま

兄のパソコンデスクのそばまで来た

「これ…が…送られてきた…」

兄はパソコンのフォルダを開いた

画面にはアイコンがひとつ…




動画の





「俺は…もう見れない」

兄はそう言うとそのアイコンを

クリックした








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