失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




暗い部屋の中で

何人かの男がいる

真ん中に裸の若い男

目隠しをされ

縛られて

犯されて





僕だ





兄は画面に背を向け

頭を抱え椅子に座りこんでいた

「止めて…」

あの時の悪夢と狂気が

僕の身体に一瞬のうちに

フラッシュバックしてきた

耐えきれず僕は叫んでいた

「やめてぇぇぇっ!」

僕は何度も叫んだ

兄は叩きつけるように

パソコンを本体の電源ごと切った

僕は震えながら後ずさっていった

だがすぐに背中が壁にぶつかり

そのまま僕の身体は床に落ちた





約束…守ってくれた…んだ

画像…返す…って

あの人…言った…だか…ら

だけど…こんなのって

ひど…すぎる

なぜ彼は僕に届けてくれなかった?

なぜ…兄貴に…?

どうなるかくらい

分かっていたろうに…





僕はあまりの仕打ちに

なすすべなく床に座りこんだまま

ひと言も発することが出来なかった

「…お前に…話させたく…ない…で

も…聞かなければ…俺が…どうして

いいか…わからない」

兄はすがるように僕を見た

「お願いだから…話してくれ…どん

なことでも…黙って聞くから…もう

これ以上…耐えられない…」







もうだめだ

隠しようが…ない

これ…を…本当に

話さなきゃ…ならないのか…?

僕は再び秘密の脆さを刻まれた

どんなに隠しても…ほころびて

漏れて…






もう…隠せない

「絶対に…言わない…って…決めた

のに…」

もう僕は涙すら出なかった










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