失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




思えば

あの一通の手紙から

始まったような気がする

兄の父が僕にくれた手紙

もし

あの手紙がなかったら

僕たちは今ごろどんな道を

歩いていただろうか?

そんなもしもの話は考えても

意味がないかも知れないけれど…

ただ僕たちはいまだ

兄の父親の影から

逃れることが出来ない


「…だけど彼は…無理矢理薬で僕の

身体の自由を奪った…それからこの

部屋で…彼の復讐が始まったんだ」


兄の父親は彼に姿を変えて

まだ生きてる

愛によって書かれたはずの手紙が

僕の悪夢になったように

兄の父親の恋人が僕を愛して

愛によって約束し返してくれた

脅迫の証拠が

また今度も兄と僕の悪夢になる


「…知らない場所で…何度も…犯さ

れ…て…」


復讐から始まった二人が

最後には心の明かりの中で

愛した者を不器用に慈しみ

愛された者の涙の中で別れた

だが復讐という狂気の凶悪な力は

宿主を離れて成長し

命を宿してしまったかのようだった


「…僕を汚したい…って…闇に犯さ

れる僕を見たいって…彼は僕を薬で

狂わせて…知らない男達に僕は…

まわされた…僕…堕ちたんだ…身体

がもうおかしくなって…だから…僕

の身体…もう前とは違っちゃってる

んだ…」


ここで告白を終えられたら

どんなに楽だろう

だが…僕は

まだ最悪の出来事を告げなければ

ならない



僕と彼が

愛し合ったことを







< 236 / 360 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop