失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「…最後に会った時…彼は追われて
た…他人の秘密を食べ過ぎた…って
まずいことが起きていて消されるか
も知れないって…」
そう…こうやって話していると
ゾッとするほど死に際の兄の父親に
状況もなにもかも相似してる
そして兄と僕も
その同じ二人がこうやって
愛の中で引き裂かれてる
経験の双子みたいに同じ悪夢を
夢に見ながら
「彼は…愛を…知らなかったんだ」
もうやめたい
もう降りたい
これを言うくらいなら
舌を咬み切ってしまいたい
「…彼の淋しさを…彼…僕に…」
僕はその後を続けることが
できなかった
長い沈黙が訪れた
僕は両膝を抱えて顔を伏せた
「…愛し…合えた…の?」
突然兄が僕の告白を継いだ
僕は驚いて兄を見た
「……」
「彼と…愛し合った…の?」
兄は初めて僕の目を見た
僕はそのことに返事も出来ず
兄を見詰めるだけだった
「…愛し合ったんだね」
兄は返事をしない僕から
答えを読み取っていた
「うっ…うう…」
僕はこの日初めて涙を落とした
兄が僕に近づいて来る
なぜ…?
怒ったの?
そうだね
僕は兄貴を裏切ったんだ
殴って罵倒してくれたら
どれだけ楽になるだろう
僕は目をつぶった
その瞬間
兄は僕を抱きしめていた