失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「兄貴のせいじゃない…兄貴のせ
いじゃないんだ…お願いもう…自分
を責めないで…お願いだから…」
いつも届かない懇願だけど
僕は何度でも願うしか術がない
「僕は…あの人に…兄貴と同じ地獄
を見せてもらったんだ…兄貴の孤独
も…兄貴の狂気も…それまで本当に
わかってなんかいなかった…あの人
正確に僕を兄貴のところまで連れて
行ってくれた…それから…」
僕の目に一気に涙が溢れてきた
「愛したら…許してしまえる…こと
も…それから…別れ…も」
そう…兄が父親を許して
看取ったように
「…だから…僕は…辛かったけど
大事なもの…もらった」
だから
「だから兄貴…僕は彼に…ありがと
うって…思う…よ」
僕は兄の顔を見た
「兄貴も…親父さんに…きっとそう
思った…よね…」
兄は僕を切なそうに見た
「…ああ…そ…うだ」
兄の目は優しかった
「そうだ…よ…」
「だから…自分を責めないで…母さ
んも…ずっと自分を責めてた…私が
バカだったから兄貴…あんな目に会
わせたって…でも兄貴の親父さん
救えたのは…兄貴だけだったんだよ
母さん…それで…救われたんだよ」
同じだ
兄貴のあとを追って
兄貴と同じように