失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】

暴発




一日一日と兄が衰弱していく

鶴の機織りみたいに

自分の羽根を一本づつ抜いて

父親の死に装束を織っている

帰りも段々遅くなる

食事をしているのかしてないのか

わからないくらい日々憔悴していく




夜中にこっそり風呂場で

血のついた下着を洗っている

僕の心も切り刻まれていく

兄は僕と二人きりになると

すぐに部屋から出ていく

僕は夜になると布団のなかで

泣いてばかりいる




兄がまたうなされている

いつもうわ言は同じ

「やめて…もう許して…お願い…

助けて…いやだ」

僕は一日中爆音のような音楽を

毎日毎日繰り返し聞いている

なにも考えたくないし

なにも感じたくない

なにも見たくないし聞きたくない

前より発作が頻繁に起きる

病院の薬が増える

医師からカウンセリングを勧めら

れるが言えないことが多すぎて

話をしたくなどない



兄に触れたいんだ

それだけでいい

この地獄はいつ終わるんだろう

わからない

きっと兄にも







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