失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「ああっ…」
僕は耐えきれず喘いでいた
身体が弓なりにしなる
だんだん呼吸が荒くなる
ああ…
墜ちた時の…あの…感じだ…
目覚めきらない意識が
性感に拍車をかける
愛撫も薬もないのに
ただ兄に触れられただけで
「どうした…?」
暗闇で兄の声がした
兄の声が僕の身体を震わせる
あの時のように
僕の身体は触らなくても
声や視線によって快楽を
埋め込まれてしまう
身体が勝手にがビクッと痙攣する
「…見ないで」
兄が僕を抱く時に必ず言う言葉を
僕は無意識に告げていた
「どうしたんだ…?過呼吸か?」
荒い息を繰り返す僕に
兄が心配そうに尋ねた
「違う…身体…が…たまらな…い」
僕は朦朧としていた
深い眠りの余韻が僕を捕らえていた
さっき兄が無意識に僕に回した手が
暗闇で僕の肩をそっとつかむ
「んあっ!」
「感じるのか…?」
その言葉…あの時の車の中…で…
兄が…彼と重なる
がくがく震えるほどの高まりが
僕を襲った