失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




兄を失って3ヶ月あまりが過ぎた

期末テストは無惨に全滅で

担任が発作の件もからんで

僕に指導が入った

補習と補講と再試験で

兄のことを一瞬忘れかけるくらい

学校のことでバタバタした

勘の良い母はとっくに気づいていて

僕に何気なく

「お兄ちゃんとケンカしたの?」

と探りを入れられた

僕は

「別に…兄貴の機嫌が悪いだけだろ

バイト忙しいから」

とごまかした

兄にもきっと母はさりげなく

僕となんかあったのか

訊いているんだろう

兄はなんて答えたんだろう?

母さんに訊きたいと思った



僕はなんでもないふりをし続けた

泣くときは人に見られないように

怒りはギターだけにぶつけた

でもその苦しみは自分の予想以上に

過酷で耐えがたい苦痛だった

抑えこまれた狂気と激情は

僕のキャパを越え

その日いきなり暴発した




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