失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



僕の身体が覚えてしまったこと

それはあの人が僕を飼い馴らすのに

始めから終始していた

ある行為だった




縛られて犯されること




僕の身体が望んだのは

それだった





言えない…

兄に言えない

自分の求めていることに

僕は激しい恥辱と恐れを感じていた

僕のすべての羞恥心がその要求を

拒絶したがっていた

にも関わらず僕の腕は

自由の不安定さにわなないていた

縄を…手錠を…はめて

縛りつけて…自由を奪って

まだ僕は僕の身体を許していない

だから無理矢理犯して

僕のせいじゃないって言って

兄が僕をそこから救い出そうと

僕が自分の身体を許せるように

100%受けとめてくれることも

わかっているはず

なのに僕はマゾヒズムという倒錯を

受け入れることを拒絶したかった

もう…無理だよ

兄弟で同性愛という二重の桎梏に

畳みかけるように刻まれた

異常な性癖

それを埋め込まれてしまったことに

ここで気づくなんて…

僕はとっくに闇に飲み込まれてる

だけどいまこの身体で

何度拒絶しても

この縛られたい欲望を退ける術が

ない

兄が傷つかないか

どうしても反射みたいに

考えてしまう

兄も彼に縛られていた

僕がまた同じように調教された

と知ったら

兄はどう思うだろう






でも…もう限界だ

僕の理性なんて何の役にも立たない

「どうして欲しい…?」

兄が僕に囁く

耳に声と吐息が触れる

「そこはっ…ダメっ…!」

耳が一番弱い

兄がよく知ってるように…

理性が弾け飛ぶ

「だめっ…ああっ!」

手が…手が…

「ああ…縛って…僕を…手を縛って

犯し…て」

僕は狂ったように兄にしがみつき

腰を兄にこすりつけながら

懇願していた










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