失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
(この子は…調教したら良い奴隷に
なりそうだ)
(ええ…そうでしょう…縄が似合う
縛られて見られただけでこんなに
よがり狂って…)
「調教…されたのか…あの人に」
兄は動きを止めた
その声はとても暗かった
「わからなかったんだ…こんな風に
…なってた…なんて…」
僕ははち切れそうな欲望を
兄の身体にこすり続けていた
もうなにかを留めようという判断は
一切働きを止めていた
僕の中の獣のような衝動だけが
僕を衝き動かしていた
「お願い…手を…縛って…手が…
どっかに…連れて行かれそうなんだ
ベッドにつないで…お願いだから…
いやああああぁぁぁっ…!」
手首の異常な感覚
脱力とも痙攣ともつかない浮遊感
不安と空虚感が
手首から先を飲み込んでいく
僕は思わず自分の手首に噛みついた
「やめろっ!」
僕の手首を兄が僕の口から剥がす
「だめっ!だめっ!」
僕は兄に抵抗した
「手首がなくなるっ!」
僕は半狂乱になっていた
「手錠でもいいからっ!つないで!
早くぅぅっ…!」
兄は一瞬凍りついたように絶句した
のたうちまわる僕の身体を
羽交い締めにして
両手で僕の左右の手首をつかみ
ベッドに押しつけた
「待ってろ…いま…つないでやる」
悶えて泣き叫ぶ僕に兄はそう言うと
身体をずらしてベッドの下に
片手を伸ばした