失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




僕たちは明け方まで愛し合い

昼に目覚めた

昼飯をとり

ゴミの山に挑み

兄と二人実家に戻った

僕にはそのすべてが奇跡だった





それが僕たちの祈りの答え

なのだった

兄の心に決意をもたらし

あの人の心に明かりを灯し

僕に兄を返してくれた

そのあまりのダイナミズムに

僕は深い畏怖と畏敬とを

感じずにはいられなかった

宇宙の叡知が僕たちを包んでいる

僕には考えもつかない方法と展開で

完全な愛の中へ導かれる

本当に…信じられないほどの

正確さで





あの部屋を温存しておくと

兄は決めていた

実験の時は家まで帰るのは

ほんとにちょっと大変だし…と

実家に帰る電車の中で兄は言った

建前は…それ

実質はお前との部屋…だ

今の状態だと

あの部屋がないと…マズい

あの部屋は昨日を最後に

俺の墓場改め避難シェルター

と役割を変えるんだ

兄は真面目な顔で

そう僕に宣言した

「なんか…狭くて地下っぽい用途は

あまり変わらないが」

兄は自分で言って苦笑した

「でも…死ぬための場所じゃない

生き抜くための場所だ…お前と…」

兄は少し眩しそうな顔で

新緑の木立を車窓から眺めていた

「俺は生きようとしてるんだな…」

兄が誰に言うともなく呟いた

僕はその言葉に

胸がいっぱいになった







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