失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




「兄貴…ずっと嫉妬しててよ」

兄はびっくりしたような顔で

僕を見た

「やきもち妬いてる兄貴は…たまら

ないほど…かわいい」

僕は今日の兄の見せた

プレミアの笑顔を思い出しながら

下を向いて本気でにやけていた

兄はいつの間にか

耳まで赤くなっていた

「兄貴…恥ずかしいの?」

「なっ…なっ…なにみてるんだよ」

「赤くなってる…なに?」

「ばっ…バカ」

かっ…かわいい…

「乙女だ…」

「やめろって!」

「だって…たまんないよ…ここで

押し倒したい」

僕はベンチの上で兄に詰め寄った

「こっ…ここは…マズいって」

「キスしたい」

「俺の嫉妬はどうしてくれるんだ」

「だから…ずっと嫉妬しててよ…

かわいい」

「あーっ!もうっ!」

ヤバい…本気でそそられる

「俺は本気で苦しんでるのに…!」

僕はもっと意地悪なことを言った

「兄貴が手を離したからじゃない」

「…そ…それは」

「僕が泣きわめいてお願いして手首

切っても兄貴は僕を手離そうとして

僕から離れて行ったのに…」

僕はわざと兄に寄り掛かるように

して手首の傷を見せた

意地悪な気持ち以上の何かが

僕に生まれていた







< 259 / 360 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop