失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




「兄貴が僕を兄貴のモノにしてくれ

ないんだったら…僕が兄貴をもらう

兄貴が逃げないように僕が鎖で縛る

兄貴が本当に僕の人生を壊したって

いうなら…僕にも考えがある…壊し

ておいて逃げようなんて卑怯だよね

兄貴自身で責任取ってもらうから」

「そ…それは」

「もう弁解は聞き飽きたの!全部僕

を捨てる口実なんだし!いい?

罰として兄貴は僕のモノになるの!

僕に支配されるの!良いよね?!」

兄は僕の(ある意味)正論に

グウの音も出なかった

あっけにとられていた…の方が

正しいけど

「兄貴…契約だからね…破ったら

ただじゃおかないから…えっと…

母さんに全部バラす」

「それだけはやめろ!」

兄はマジな顔になった

「僕はマジだからね!」

僕もその時本気で怒っていた

かもしれない

兄は僕の剣幕に押されていた

「それくらいしなきゃ…兄貴は責任

取らないで逃げるから…僕から逃げ

るから!」

「脅迫…?」

「そうだよ!僕はね…あの人から

僕たちの秘密を盾に脅されて無理矢

理抱かれ続けたんだ…兄貴は自分の

せいだと思ってるんでしょ?だった

ら僕も兄貴を脅して言いなりにさせ

る!」





兄はそれから無言だった

僕たちは結局歩いて家まで帰った

二人で黙って夜道を歩いた

喜劇なのか悲劇なのか?

どちらともつかない変な気分が

僕を包んでいた

兄はいつものように深刻な顔で

暗い地面を見つめながら歩いていた






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