失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「オレ…デブに初めて惚れそうにな
った」
とヤツは新入生歓迎会で彼女の
自己紹介変わりのドラムテクを見て
いきなり立ち上がり
「オレと組まないか!ナヲさん!」
と叫んだのだ…迷惑な
「誰だ…それ」
いや…ナヲさんは
マキシマムザホルモンのドラムで
女…だからかよ!
勿論彼女はナヲさんという名前
ではない
しかしマキモ好きのヤツは
そのパンダな帰国子女を
卒業するまでナヲさんと呼び続けた
失礼なやつだ
というわけで
リズムセクション女子担当という
あまり類を見ないユニットが
出来上がった
練習用のメロだけ入ってる
シンセのカラオケを
頼みもしないのにマニア顧問が
楽しそうに作ってきてくれた
「おっ…お前のプレーヤーにmp3で
落としてやるぞ」
と顧問は僕のデジタルプレーヤーに
いそいそとPCから落としてくれた
彼の曲の次に
僕の曲が入った
彼…どこかでちゃんと
生きてる…かな
彼のプレーヤーで自分の曲を聞いた
少し胸の奥が切なくなった