失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




それは

音楽の先生の死

だった




校長の話は曖昧だった

事故により…昨日入院して

その夜亡くなられたと…

若い女の先生だった

まだ30歳前だったはずで

童顔で背が低いので大学生みたいな

明るく可愛い先生だった

僕たちはびっくりした

まさかあの先生が亡くなるなんて

誰もが驚いたと思う




朝礼が終わり体育館を出て

僕はパンク野郎を待って

驚きを分かち合おうと思っていた




ヤツはすぐ後ろからやってきた

だがその顔は

まるで魂が抜けたような

紙のように白い顔をしていた

「ちょ…おい」

僕はヤツの異様な雰囲気に

声を掛けずにはいられなかった

だがヤツは夢遊病者のように

フラフラした足取りで

僕に気づきもせずに教室に向かって

階段を上って行った





イヤな予感がした

今までのヤツとの会話が

全てフラッシュバックした

まさか

と僕は自分の考えを否定した

だが僕の胸はそれを覆すかのように

ざわざわと騒いだ





僕は猛然とヤツのあとを追って

教室への階段を駆け上がって行った









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