失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




「な…保健室行こう…このままだと

なんか…マズいぞ」

お前の秘密ってやつがどういうのか

知らないけど

こいつを屋上から引き離さないと

死ぬ…

「行くぞ…腹壊したって言えよ!」

僕は号泣するヤツを無理矢理起こし

有無を言わせず抱えるようにして

保健室まで運んだ






「いいか…しばらく寝てろよな」

小さい声でヤツに囁き

僕は保健の先生にヤツを引き渡した

本当は目を離さないように

先生に言っておきたかったが

そんなこと言って怪しまれるのは

ヤツを追い詰めかねない

「今日は君が介抱か」

保健の先生が笑った

「たまには…はい」

僕はそう言ってお茶を濁すと

心配を残しつつ教室へ戻った







音楽の先生は結婚していた

旦那さんは確か大学の准教授か何か

だったはず

そしたら下世話な言い方をすれば

“学校の教え子と不倫”

ということになる

授業もロクに耳に入らないまま

僕は目を閉じてため息をついた

なんでだ

なんでそんなことになったんだ?

ヤツと先生も

今回の事故死も

あいつ…話すかな

いや…話させなくちゃ

僕は授業が終わるのをじっと待った

チャイムが鳴り先生が教室を出る

同時に僕も教室を出た

ヤツを見張りに保健室へ走った

「廊下走るな!」

すれ違いざまに先生が怒鳴る

「すいません…」

僕はそのままの速度で

先生の視界からログアウトした











< 277 / 360 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop