失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
今は訊けない
なにが起こっていたかなどとは
ヤツと先生と
その配偶者
鬼畜…の意味
事故じゃないって…
僕は寒気のままヤツの顔を見つめた
「わからない…なんで…事故?」
とヤツは呆然と宙を眺めて呟いた
「誰に聞けば分かるんだ」
ヤツはおもむろに席を立った
「どこ行くんだ?」
不意を突かれて僕は
ヤツの前に出ようと思い
シートから立ち上がる瞬間に
向こう脛をテーブルの足に
思いっきりぶつけた
「いつっ!」
後ろも見ずにヤツはボソッと呟いた
「帰って寝る…死なないから…安心
しろ…」
僕が膝を抱えうずくまっている内に
ヤツは一人で喫茶店を出て行った
僕は追いかけなかった
すぐには死なない
それはなんとなくわかった
だけど…
僕はとりあえず部活の顧問にでも
事の幾らかでも聞き出してみよう
と考えていた
デモの締め切りが近づく
また…なにもかもが賭け
の状況になる
ピンチは自分に起きなくても
辛いな…
僕の胸は友達の痛みで疼いた
愛する人が死んだら…
僕は独り喫茶店の片隅で
そんな想像怖くてできない…と
戦慄の中で固まっていた