失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



ほどなくして兄は

大学の研究室に近いアパートを借り

独り家を出ていった

家族には研究室の実験が始まるから

という誰も疑わない理由を作って



取り返しのつかない

僕の罪




もうこれで

隠れて血を洗わなくてもいいね

父さんや母さんに

苦しい嘘をつくことも

そう

僕のせいだ

自分の中に鬼を生んだんだ

僕は人間だったはずなのに

弱すぎて弱さが凶器になって

自分を止めることすらできなかった

謝るすべも失って

兄を失って




父親を死に追い込んだという

兄の罪悪感

自分を壊した父親に許しを請う為に

刻まれる血まみれの契約書



許し?

許しを請うのはあいつだろ?

僕は許さない

僕はあいつを許さない

そして僕も

僕自身も








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