失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】





「カミングアウト」

僕は驚いて椅子からずり落ちそうに

なった

「マジで?!」

「お前がそいつを信頼していれば…

の話だ」

「そりゃ…そうだけど」

「これから友達として…音楽の相棒

として…彼がお前にとって重要な

関係になっていくとしたら」

思いもかけないことを兄から言われ

僕はあわてていた

「だ…だけどさ」

「すぐじゃなくても良い…お前が

言える時に…そういう場面が来るさ

きっとね…それが今かも知れないけ

れど」

兄は窓の外を眺めていた

「お互い大事に思ってる…違う?」

僕はそれを聞いて

動揺が引いていくのを感じた

「うん…そう…だね」

「さらけ出せる友達が必要だ…お前

の信頼に応えられる人間が」

兄は優しい目をして少しうつむいた

「そうすれば…俺は安心する」

「そ…う?」

「ああ…そうだ」

兄は切なげに答えた

「お前に…もっと…楽に生きて…

欲しい」

兄は少し声を詰まらせた

「お前が心を開いて…安らかに暮ら

して」

その声は切実な響きで

僕の耳を打った

兄はカーテンを握りしめていた

「いつも…そう…祈ってる」

まるでその場で祈るかのように

うつ向いて目を閉じて…

僕のこと

いつも…




あっ

それは…





その時僕の中である理解が弾けた

それはまるで稲妻のように




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