失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
その日の放課後
なぜかヤツと僕は
再びあの人の来ない喫茶店の
あの奥の席に座っていた
二度目の会合の発起人は
僕ではなくヤツだった
「あ…アイスカフェオレ2つ」
ヤツがウェイターに注文した
僕たちはこの前と逆の席で
向かいあって座っていた
僕たちはまたもや沈黙の中にいた
「メール見た?」
「メールありがとう」
僕たちはまたもや相撃ちをかました
「デジャブかよ」
ヤツが呆れたように呟いた
「それで…もう大丈夫なのかよ?」
僕は休み時間には聞けなかった事を
すぐさま尋ねた
「…大丈夫…か…どうかなんて…
わかるかよ…」
ヤツは言葉を切った
少しの間があり
ヤツは話そうとしている何かの
糸口を考えているように見えた
やがてヤツは口を開いた
ヤツの話の要点はこうだった
オレと先生のこと…絶対に
秘密にしてくれ
頼む
当たり前だ
…と僕は答えた
なぜヤツは敢えてそんなことを
念を押すんだろう?
するとヤツは再び重い口を開いた
「昨日…先生の友達と会ってた」
「えっ…?なんでまた」
ヤツは話しにくそうに頭を掻いた
「どっから話せばいいんだ?」
「…思いついたとこでいいよ」
ヤツは何度かうなずいて話し始めた
「あのさ…DVってわかるよな」
「あ…うん…あの…旦那とかの暴力
だろ?」
「まあ…そんなアレだ」
「まさか…」
もしかして…先生が?
ヤツは黙ってうなづいた
その目に一瞬殺意の火が閃いた