失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




「やっぱり…事故じゃ…なかった」

とヤツは低い声で僕に告げた

ヤツの声は押し殺した分

とても不気味に聞こえた

「一昨日の夜に先生の友達っていう

人から…メールがきた『私は彼女か

ら君への伝言を預かってる』って…

話さなければならないから会おう…

って書いてあって」




ヤツは昨日その人に会い

事件のあらましを知った

それは傍観者の僕でも寒気がする

悲惨な話だった

旦那に殴られて倒れた先生は

頭を部屋の段差に強く打ちつけ

その時は起き上がれたものの

だんだん吐き気と頭痛がひどくなり

自分で夜中に救急車を呼んだという

救急車が来るまでの間に親友に

メールを打った


今からこんな事情で病院に救急車で

向かうけど…もしかすると重傷の

可能性があるからあなたに連絡した

もし入院することになったら

早めに病院に来てね…と

そしてすぐ二通目のメールが来た

例の‘彼’に事情を説明してほしい

バカなことはしないように言って

この二通目のメールはすぐ

削除して欲しい

そしてヤツのメアドが

メールに貼ってあったという




そして先生の危惧は当たった

次の日の夜明け前に

彼女は帰らぬ人となった

死因は脳内出血による脳幹ヘルニア

だったということだった

だがその旦那は

自分のしたことを隠していた…




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