失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




この事態に僕の心に

兄の言った事が響いた

これでは明らかに

圧倒的な立場の有利さが

僕の側に一方的に生まれてしまう

僕たちが友人として

バンドの相棒としてこれから

信頼関係を深めていくのに

この有利さははっきりいって

ヤバい

ヤツが僕に意識的にも無意識的にも

負い目の中で気を遣いながら

僕と対等に付き合っていく?

ヤツの性格は強気で

人の都合など気にしない直感野郎で

ゴーイングマイウェイの申し子

のような人間ではあるが

こと彼女に関していえば

きっと人格が変わったような

捨て身の対応をするんだろうと

屋上でヤツを止めた時に

その気持ちが伝わってきてしまった

ヤツに頭を二回下げられた

驚きと

やっぱりという思いが交錯した




互いに秘密を捧げ合うこと…

兄の生まれつき刻まれた

不利な秘密の傷痕が

僕にきっとバランスを失わないよう

ヤツとの信頼に応えられるよう

警告を与えてくれたに違いない

こんな事態を見越して…だったのか

本当に兄の言ったことが

僕たちの絆を左右する



(そういう場面が来るさ…きっとね

それが今かも知れないけれど)




その場面は

確かに今だった









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