失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
翌日の放課後
ヤツは解せない顔で部室にいた
「オレはなぜ…ここにいるんだ?」
「いや…こっちが驚くよ…まだ無理
かって思ってたし」
それは本当だった
昨日あのデモの締切の話を
ヤツに切り出した直後
ヤツの混乱はピークに達した
そして前と同じように
いきなり立ち上がり
“帰って寝る”と言い勝手に帰った
さすがに僕は足を固いものに
ぶつけはしなかったが
いきなり帰ったヤツに取り残され
気がつけば全く手付かずになってた
氷が解けてかなり薄くぬるい
アイスカフェオレを飲み干し
またしても独りで喫茶店を後にした
始めと終わりにデジャブかよ
昨日はそこで終わった
そして今朝は
実はこちらがパニックに
なりかけていた
正確にいうと昨日の夜からだ
カミングアウトした後に訪れたのは
妄想と恐怖感だった
あの時はヤツは混乱していて
僕の話をあまり理解していなかった
としたら?
あのあとヤツはゆっくり考えて
僕が告白したことの意味をリアルに
想像する
やっぱり気持ち悪いという結論で
再び会ったらもう近寄りもしない
んじゃなかろうか?
と…僕は一晩そんな妄想に
悩まされていた
そんな日に限って兄は実験のシフト
が明け方にかかりうちには居ないし
実験が忙しいのか暇なのかさえ
わからないし
兄を実験中に悩ませるのもいやで
結局不眠気味
そして
そんな男と一緒にデモ作れる?
バンド組める?
僕のカミングアウトのせいで
爆裂KissLOVE天使が空中分解する
かも知れない…と思うと
もう世界が終わったような感じで
僕の存在自体が悪
というような深い闇の中に
久しぶりに気持ちが墜ちて行った
自分の卑屈さに驚く
ヤツを信じたいのに…
後悔が襲ってきた
そのこと自体に嫌気がさした