失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



朝の教室は

晴れているのに暗かった

ヤツの席は空いていた

始業のチャイムが鳴った

だがヤツは来なかった

みぞおちにボディブローを

ガツッと食らったような

息も出来ない苦しさ

身体を起こしているのが辛くて

僕は机に伏せた




その途端

出席簿を読みあげる先生の声を破り

ドアをガラガラッと開ける音がした

ハッと振り向くとそれはヤツだった

一瞬でヤツと目が合った

振り向いた形のまま

僕は引き吊った顔でかたまっていた

「すんませーん…見ての通りの遅刻

でっす」

ヤツはペロッと舌を出し

僕に“マズった”と言うような

苦笑いをして見せた



あああ!

ヤツに嫌われてないっ

しっかりしろ自分

まだ生きてるぞ!

僕の身体は再び

極度の脱力状態となった

大丈夫だ

兄貴

やっぱりヤツは良いヤツだ


僕は安堵の中不眠を取り戻すべく

机の上で完全な熟睡を体験した

まあ不可抗力というやつである



そして奇跡の相棒と僕は

今部室に居るのだった



「オレ…まだ歌えないかもな…」

ヤツがマジな声で呟いた





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