失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「なにもかも…なにか積み上げても
なんか…なにもかも無駄なんだって
“それがどうした?”って…
それがどうした?…って思うんだ
…気がつくと不意に空っぽなんだ…
あの日みたいに…頭がおかしくなり
そうに…なって…兄貴しかすがれる
人がなくて…」
もう言葉がない
だめだ…顔を両手でおおう
「おいで…」
兄のその囁きが
一瞬で僕の心を包みこんだ
「あ…にき」
柔らかく抱き締められる
「お前のベッドに行こう」
兄から下から支えられながら
上のベッドに上がる
兄が戻ってドアと窓を閉めた
僕はベッドの上で虚脱していた
ずっと…このしばらく
辛かった…な…
兄が隣に滑り込む
「疲れてるよ…とても…体も心も」
兄が僕の肩を抱き締めながら囁く
「ん…気が付かなかった」
「明日日曜だから…俺の部屋に行こ
うか」
「あ…うん…行きたい」
「ここんとこの実験で部屋も散らか
ったし…」
兄が少し笑った
「言い訳は完成…だ…俺の片付けら
れないのも役に立つよ」
兄は舌を出して苦笑した
「宇宙に無駄はない…お前の空っぽ
も…大事だ」
兄は僕の涙を指先でぬぐった
「あのさ…今日なんで早かったの?
帰るの」
そういえば兄はなんでこんな時間に
家にいるんだろう?
「ああ…徹夜明け」
「ごめん」
「いいよ…ちょうど良い…」
胸が温かい
兄の愛で空虚が満たされて
疲れてるだけ…なのかな
それだけではない
それはなんとなくわかっている
でも…眠くなってきた
「晩飯まで…寝たらいい」
「うん…」
そう言うと僕は眠っていた