失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
兄と居る時だけ
なにもかも忘れていられる
久しぶりの隔離シェルターで
僕と兄は狂ったように愛し合った
二つのものをひとつにしたいと
融けあう束の間の時を重ねる
声を出して喘ぐ
それが許される幸せと切なさ
空っぽ…は確かに無駄じゃないよ
この時間をくれたのは確かに
僕の空虚
僕は兄に抱かれながら
この空虚の意味を追い求めていた
「ああっ…あに…き…も…だめっ」
「融ける?…狂う?もっとするよ…
もっと…深く」
「はうっ…!」
「お前の声で…もうイキそうだ」
快楽が欲しいだけなのか?
壊れて制御のきかない身体が
震えて激しく身悶える
兄も僕もそれが悲しい
なんでこんな身体に
なっちゃっ…たのかな
兄の愛撫がだんだん激しくなる
たまに出る兄の嗜虐性
今日は兄も理性が飛びかけてる
前は受けとめきれなかった
兄の激しい愛撫を
壊れた僕はなぜか抱きとめられる
互いが開ききってる
悲しみの中にすらなぜか解放がある
でも…終わらない
暴走してる身体…心…どちらも
燃やし尽くしたい
灰すら残らないくらいに
「あっ…あっ…あああっ!」
「死にそう…だ…」
「んっ…死にた…い…よ」
兄の切ない喘ぎ声にまた僕も高まる
とめどなくうねり弾ける波涛
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