失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
そして一学期も終わりに近いある日
とうとうアレが来た
「…誰が開ける?」
大きな茶封筒を手に
マニア顧問は僕たちメンバーを前に
聞いてきた
そうだ
一次審査の通過通知だ
これに通れば地区大会の出場権が
手に入る
第5回 闘え!バンド・バトル
高校大会…は今年から
闘え!バンド甲子園!
に名前が変わったそうだ
出場校が去年辺りから飛躍的に増え
全国で200校以上が参加した
らしい
今年はまた2~3割は増えるだろうと
予想された
増えるに従って地区予選が
各県予選となった
我が県は参加校はそこそこ多い
一次予選を通るのは
かなり難関と言えた
「はっきり言って」
顧問は言った
「東大より難関ですよ…君たち」
「むむむ…」
ヤツがうなっている
「ほら言い出しっぺはお前だろ?
早く開けなよ」
先輩がヤツに茶封筒を押し付けた
「あードキドキデス!」
ナヲさんがテンションを上げる
「わかった…やはりこれを開けるの
はこの俺様の役目だ…諸君」
ヤツがそう言うと先輩が嬉しそうな
顔をした
「ようやく脳に入った大腸菌が消毒
されたねっ」
「だから…もう何度も謝ってるじゃ
ないすか」
「あの…中見たいんだけど」
漫才が果しなく続く予感がしたので
僕は率直な意見を言ってみた
「うむ…致し方ない…では開ける」
全員が固唾を飲んで封筒を見つめる
ヤツが封を切った