失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
「…つ…つうか…だ」
ヤツのかすれた声が響いた
「通過?!一次通過?」
先輩が声を張り上げる
「通過だ!一次予選通過ー!!」
ヤツが拳を高く突き上げて叫んだ
「やったー!!」
僕も同時に叫んでいた
「信じられまセーン!!スゴイ!」
「マジかっ!マジでかっ!」
やつは書面を見つめながら
信じられない顔で叫んだ
「お前らスゴいぞ!」
顧問も興奮してる
「次はっ?」
先輩がヤツに聞く
「県大会…7月28日だ」
「あと…2週間?!」
「その次っ!」
「全国大会…8月20日21日決勝!」
「その日!待ってろよ!」
「やったーっ!」
先輩がヤツの背中をバシバシ
叩いている
「さあ!練習デス!先輩!」
「おーっ!」
真面目な後輩にまたもや感動しつつ
僕たちはこの結果を手放しで
喜んでいた
いろいろあったから
とてもいろいろあったよね
今日は喜んでいい
これは始まりに過ぎないけど
始まれるんだここから
部室が沸いている
みんなまさか通過するとは
思ってなかったみたいだ
僕はヤツの顔を見た
ヤツも同時に僕を見てた
お互い言葉にならない思いを
確認しあうかのように
「イケる」
「ああ…ほんとだ」
ヤツは一瞬切なげな顔をして
視線を落とした
よくこんなに立ち直ったな…と
声を掛けたい
頑張ったよな
本当に…辛い中でここまで
前奏のギターのリフ
なんだかたまらなくて
狂ったようにピックで弦を削った
それは少し
イク時の感じにさえ似ていて