失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
クリスマスライブが近づき
僕らは教会のステージの下見と
神父さんへの挨拶のため
顧問の先生と一緒に教会に赴いた
僕には初めてのキリスト教会だった
テレビや雑誌で見た教会とは違い
もっと質素で飾り気のない
シンプルな作りをしていた
神父さんはすでに白い髪の毛で
ダンディな白い髭をたくわえていた
「クリスマスはサンタを地毛でね…
暴れても取れない方が良い!」
と僕たちに笑って説明してくれた
「僕はアメリカの教会でずっと布教
してきたんで」
と神父さんは語った
「楽しくてフレンドリーな教会こそ
が僕の理想なんだよ…でなきゃ神は
ビートルズもストーンズもお造りに
はならないからね」
ウイットの効いた彼の話は
僕らの「キリスト教の神父」という
真面目で厳かなイメージをなし崩し
替わりに“ロック好きの不良中年”
という新たな実像に生まれ変わった
良いのやら悪いのやら…
でもこの不良神父は良い感じだ
僕は少しだけ
演奏する気持ちが持てるような
そんな気がした